夢の中。
―――おそらく、夢の中。
前も後ろもおぼつかないような感覚。
どこか宇宙空間を漂うそれに近いだろうか。
だが、周りが違う。
それは全てが巨大。
それは全てが矮小。
それは全てが速く。
それは全てが遅く。
それは全てが―――
それは―――
―――夢の中。
その一言では、済まされなかった。
それは、無限にして夢幻の宇宙。
有り得ざる「死霊秘法の主」が踏みしめた/踏みしめる/踏みしめられなかった戦場。
魔を断ち、神をも殺す剣が駆ける/駆けている/駆けた世界。
その世界を、ただのちっぽけな人間が―――
神々に背き、遺伝子に手を加えられた、ひとりの少年が、
無限にして夢幻の宇宙を、漂う/漂っていた/漂っている。
ふと、少年は気になった。
自分はどうなるのだろうか。
この数多の宇宙を、永遠に漂い続けるのだろうか。
夢だとしても、たとえこれが夢であろうとも、
自らの考えはあるし、時に記憶もある。
己のしたこと。
自由の翼を断ち切ったこと。
復讐を終わらせたこと。
父の/母の/妹の/先輩の/想い人の仇を。敵を。
自分の手で、討った。
これでいい。
これで、全てが終わった。
理不尽な一方的な間接的な、おまけで正義の味方な「虐殺者」は、消えた。
だからもう、戦うことはなく―――
―――本当にそうなのかな?
声とともに、舞台は変わる。
そこは、かつて自分のいた場所。
そうだ。あれは―――
「うぉわああっ!?」
機銃。
とっさに横っ跳び。
上から、機銃。
遮蔽物に隠れられたのは幸いだったのだろうか。
上から。
周囲は、死の臭いに満ちていた。
上に。
脚を撃ち抜かれ、腕を撃ち抜かれ、それはまだ幸運だ。
中には胸を撃たれ、もう手遅れな人間。
頭を飛ばされ、胴体だけの人間。
そして、もはや人間というより肉片。
上に。
では、あれは何だ。
上に、上に!
白かった。
白い脚。蒼い胸。紅い翼。
見間違うものか。間違いはない。
―――「インパルス」。
これは、俺のしたこと。
インド洋、あたりだったか。
それでも、あの時は
強制労働されていた人を助けるために―――
―――戦争はヒーローごっこじゃない!
また、反転。
姫様がいた。
形だけを、理念だけを理想とした親の理想を継いだ人間。
憎かった。
攻めてきた連合も憎い。家族を殺したフリーダムも憎い。
けど、一番憎かったのは。
真っ向から連合とぶつかっていったオーブ。
逃げ遅れた人々を見捨てたオーブ。
……そして、当時最大の責任者、アスハ。
だから、俺は平気であの言葉を言えたんだ。
「―――さすが綺麗事は、アスハのお家芸だなッ!」
今は、どうか。
きっと無理だ。
結局俺は、人殺しに変わりはない。
俺の手は血にまみれている。
見た目は何もついていないが、鼻をつんざく臭いさえする。
結局、戦うことで誰かが不幸になっていく。
今更気づいたことは、軍人も人間だってこと。
ヒーロー気取りの俺がやったことも、向こうから見れば大虐殺だ。
救われる人もいるかもしれない。
だけど、俺のような人間がまた生まれてくるであろうことをして、
まだ「大切なものを守るため」と言えるのだろうか?
何のために、俺は戦っていた?
教えてくれ。
誰でもいい。俺はどうしたらいい。
俺はどうしたら、本当に大切なものを守れるんだ。
―――ステラ。
そして、無限にして夢幻の宇宙に戻ってきた。
変な夢だ。
いや、これが冥府か?
少なくとも、その考えは否定する。
こんなにも眩しくて、安らげて、光が溢れるところが―――
―――光?
違う。
俺には分かった。
ステラだ。
ステラがここにいるんだ。
光が、ひとつの形をつくる。
「少しだけ、会いにきた……会いにきたよ」
俺が守れなかった少女。
手は尽した。友人の助けもあった。
「わたし、シンに【昨日】をもらったの」
嘘だ。
結局、俺が止められなかった。奴を。
「ステラは昨日をたくさんもらった。だから、明日を見れるの」
違う。
奪ったのは俺だ。君の明日を。
そうだ。結局、一番許せないのは自分。
「……だけどね、シン」
責めてくれ。
せめて君の手で、思いっきり。
他人を傷つけることしかできない俺を。
せめて、君の手で断罪を―――
「シンは、明日が同じなの」
―――え?
思わず、間の抜けた声が出てしまう。
「シンの明日は、変わらないの」
意味が分からない。
君は何を言おうとしている?
「シンは、とらわれてしまったの」
何に?
君は俺に何を伝えたいんだ?
「そう、それはね、全部―――」
瞬間、世界が動いた。
ステラが遠ざかる。
「……シン、もう時間がなくなっちゃった」
待ってくれ。
俺はまだ何も、君に伝えちゃいない。
「シン―――」
ステラ。
待ってくれ、せめて一言だけ。
謝らせてくれ。
俺の過ちを。俺の所業を。
俺は君を―――
「自分を信じて。折れちゃダメ」
―――ステラ!
「また! また、あした……!」
―――ステラ!
「ステラァァァ―――ッ!!」
しろい、へや。
しろい、ベッド。
しろい、カーテン。
しろい、かべ。
ここは病院。おそらく。
怪我があるのか、身体中が痛む。
間違いない。
俺は、「目覚めた」。
終わりのないような夢から。
悪夢から。
覚めても「悪夢」なのかもしれないが。
俺は、確かにこの世界で「目覚めた」んだ。
機神咆吼デスティニーベイン
DestinyBane
PHASE-1 「The call of...me?」