新しい朝が来た。
希望の朝だ。
話は少し遡り、教会前。
登りかけの太陽の光が照らすは、此処アーカムシティの街並み。
それを、わざわざブチ壊しにするのは。
「まったく、何故にして我輩がこんな
雑用的かつパシリ的な何かをせねばならんのであるか。
まあいい、このスーパーウェスト無敵ロボ28號IC21
〜光速のロケットでつきぬけろ!〜が完成したあかt」
「博士、煩いロボ」
台詞を遮られ、色々な意味でヤバ気なうねり方をしている我輩。
そんな彼、世紀の大天才ドクターウェストと相棒のエルザは、
今回はこの目の前の、灰色のものを回収しに来たのである。
なお、早急かつスピーディな作業を実現した上で騒音を極力抑え、
そして緊急時には「エルザ、V−○AX発動!」の一言により
空の蒼き流星となって夜の運河を滑るように、
悲しい瞳で愛を責めながら離脱するのである。キユキユキユ。
ちなみに今回は作業関係で小型である。
Mサイズといえば賢明な愚民もしくは読者ならお分かりのことであろう。
そろそろエルザが煩そうなので、口惜しいところであるが一旦切りあべし!?
「博士、無駄に文字数取らないでほしいロボ」
まったくもってその通りである。反論不可。
「さて、ではちゃっちゃとテキパキと完璧パーペキパーフェクトに
この雑用でさえもこなしてみせるので……ん? どうしたエルザよ」
「博士、熱源ロボ!」
衝撃。
「ぐへぁ!? え、エルザ!何事かこれは!」
「博士、緊急用のブースターが起動状態になったロボ! 何か下にいるロボ!」
「な、ぬわぁぁんと!?」
何がどうなった。
確認するまでもなく、緊急用ブースターが唸りを上げ始めている。
「なんだかすっげえやばいロボ」
誰かが外から攻撃をしたに違いない。
それにしてはレーダーには何も反応が……
「あ」
その時、離脱形態に変形中にサブカメラが捉えた。
今にも発進しそうな破壊ロボが。
下にいる、
正義の味方を。
「め、メェタトロォォォン!? 正義の味方が闇討ちとは卑怯千万であるぞ、
我輩もこういう場では正々堂々と策略を―――」
仮面の女が、メタトロンと呼ばれた者が告げる。
「正義を語った覚えはない」
発進。
蒼き光を纏い、空の彼方に飛んでいく。
「な、なんということであるか!? この無敵ロボの量産化が決定した暁には連邦など」
「その企画、打ち切り決定ロボ」
ロケットでつきぬけたという。
「それに、私達が騒げば近所迷惑にもなるしな」
子供達が起きるから、と心の中で付け加えておく。
しかし、どうしたものか。
メタトロンは思案する。この灰色の機械、どう処理すればいいのか。
そもそもこれは何なのか。
巨大な剣を持った人型だということ以外、何もわかりはしない。
処理のしようがないし、彼女ひとりでは無理だ。
誰か、これを代わりに処理できるような者は―――
いた。
ひとつ思い当たりがある。
行動を実行するべく、まずは朝食を作ろう。
そうして、仮面の女は姿を消した。
―――最悪だ。
いつも通り飯をたかりに来たところまではよかったんだが。
なんだこの灰色は。
道を埋め尽くす灰色。
デモンベイン程じゃないが、かなりドでかい物体X。
しかし、邪魔だ。とても邪魔。激しく邪魔。
なんとかしてこれを動かさないと、
教会への道を塞がれてはライカさんやガキんちょが困るだろう。
そして何より俺が困る。死ぬ。普通じゃないけど普通に。
「ふむ、しかしこの形……」
「またお前関係か、アル?
本当にお前といると毎日がマクー空間だ」
「いや、これはどこのア○ロ・○イかと思うてな」
「そのリアクションはどうだよ古本」
「だが主よ。此は魔術も何もない、ただの機械人形だ」
魔術とは関係ない。
ページ集めには関係なさそうだ。
しかし腹が減った。早く何とかしたいものだと頭を捻っていたら。
「あら、九郎ちゃん、アルちゃん。おはよう」
この教会のシスターの声だ。
やはり外には出られないのか、窓から身を乗り出している。
俺も一先ずは、おはようと返す。
アルもうむ、と。とことんコイツは偉そうだな。いいかげん慣れたが。
「で、ライカさん。大丈夫なのか? これ」
「そうなのよぉ、朝起きたら突然こんなものがあって。もう邪魔で邪魔で」
困ったな……本気で。
このままでは皆が不自由する。飯も食えない。
だからといって。
「九郎、アトラック=ナチャで持ち上げてどかすぞ」
「いや、何処にだよ」
そう、主に場所とか場所とか場所とか。
場所的問題がまずあるのだ。
しかも、こいつがもしむやみに動いたとしたらと考えると危険で仕方ない。
「……仕方ない、姫さんに頼むか」
覇道財閥。
このアーカムシティの実質的な支配者。
そして、その若き総帥・覇道瑠璃。
俺は彼女に雇われて探偵をやっている。
デモンベインも財閥の所有物だ。
もしかしたら、格納庫のスペースでも借りられるかもしれない。
「決めた。まずは姫さんのところで何とかしてもらうか」
「心当たりでもあるの?」
「ああ、少しな。すぐにでも行ってきて―――ってアル!?」
ナニジデヤガルンディスカクサムハ。
「見ての通りだ。中に人がいるようだと判断できたからな、
外部からハッチを開放しようというのだ」
「自分で勝手に納得して行動するな! もし仮に爆破装置でも作動したら……」
「こういう類は外部からの起爆は考えられんよ」
「だからって。お前はもう少し慎重という言葉を……」
いたよ。
ハッチが開放された。
コクピットの中には、人間がひとり。
赤いパイロットスーツのようなものに身を包んだ人間。
気絶しているのか、動く様子がまるでない。
が、やることは一つ。
―――せめて、彼を病院に。
「フフ……やはり、シナリオの急な再構築が目に見えるよ」
闇が、覗く。
「さあ、この繰り返ししかない世の中にスパイスが混じると、どうなるかな?」
闇が、嘲う。
「ああ、元々甘いから、あとは素敵なものばかりたくさんでいいか。
……楽しみだよ、シン君。九郎君」
そして、闇は消える。