その後のことはあまりよく覚えていない。
少なくともインパルスの無事は確認した。
修理でもしたのか、ちゃんと全てが問題なく動いた。
どうやって修理をしたのか謎だが。
その後が、身辺を整えたり住居のこととかいろいろありすぎた。
一応財閥はある程度支援はしてくれる。
もとの時代に帰るためには力を貸してくれるが、
それでも生活の為には近いうちに働かなきゃならない。
で、最大のポイントは。
この時代が、CE成立のさらに前である西暦であること。
一先ず、暮らしに慣れることが先決だ。
皆の時代に戻るために、ひとまず今を生きよう。
で、今俺は道案内の人に連れられ、このアーカムシティという街を散策している。
服も買って、最低限のものを揃えてもらって。
青年の方――九郎といったか――は、その重荷で潰れそうだが。
「あの……俺が持ちましょうか? やっぱり自分の荷物ですし……」
「いや、このままで良い。
あやつにトレーニングを課していると思えばよいだけだ」
いや、潰れそうなんですが。もういかにも。
少女の方は確か、アル・アジフの化身とか言ってた。
なんでも魔導書の精霊だとか。
といっても、俺にはよくわからないが。
本であるという証拠も見せられた。
タネも仕掛けもなく、半身を紙の束にした。
……どうやら、この時代に慣れるには相当の時間が必要なようだ。
「あ、アルぅ? こんなに揃えるもん多かったか……?」
「黙ってキリキリ歩け。なに、あとは仮の住まいに置けば済むことだ」
一人で持つにはいくらなんでも重すぎないかという量だが、
まだ話ができるくらいなのか。だいぶ鍛えているみたいだ。
「しかし、そろそろ昼食の時間だな。
今日こそはまともな飯を頼みたいものだが」
「まともな? 今まで何を食べてたんです?」
返ってきた言葉は。
「そこらへんにあるものを……」
「何なんですかそれは!?」
そのあとさらに、返しに「お前は猫を食ったことがあるか」と言われて押し黙ってしまう。
どれだけ極限状態なんだ、あんた達は。
「仕方ない。ライカさんのとこにでも行くか」
「ライカさん?」
「ああ、この近くの教会のシスターさ。孤児の世話もしたりしている」
「どこぞの極貧探偵の世話もな」
「それを言うなって!?」
しかし、本当にこのふたりは口喧嘩が多い。
むしろお笑いに近いような気がするが。とりあえず仲がいいと捉えておこう。
「そうだ、確かお前を見つけた時もライカさんの教会の前だったな」
「汝の仮の住居も近くにある。理由があるなら、少々の寄り道ならば問題はあるまい」
「そうだったんですか。だったら、俺も行かないと」
少なくとも、会う必要はある。
謝るのか感謝の言葉を伝えに行くのか、どちらかとなると困るが。
というわけで、俺もその教会に向かうことになった。
「ライカさーん、めしー」
いや、一言目がそれなのか。
「めしー」
さらに続くなよ魔導書。
教会の中では、三人の子供が遊んでいた。
ひとりは女の子みたいだ。
「あ、九郎だ!」
「ライカ姉ちゃんならおでかけ中だよ?」
「……っ」
三者三様。
どうやら女の子の方は人見知りが激しいようだ。
「こいつらはジョージ、コリン、アリスン。
さっき言ってた子供達さ」
この子達か。
こんな幼い子が親の温もりを奪われた。
孤児。
この子達も、俺と同じような境遇だったか。
―――思考が暗転しかけたとき、
「お兄ちゃん……?」
と、子供らしい純粋な瞳で見つめてくる。
このアリスンって子、どこかマユのことを思い出したりする。
いや、性格違いそうだし年齢もあわなそうだけど。
「おなまえは、何ていうの?」
「ああ、俺は……シン・アスカ。シンでいいよ。
この近くに住むことになったんで、よろしく頼むよ」
「シンお兄ちゃん……」
「よろしくな、シン兄ちゃん!」
「シン兄ちゃん、時々でいいから遊びにおいでね」
え……っと、最初のがアリスンで、次がジョージ。最後のがコリンだったか?
一応、すぐ頭には入りそうだ。
そんな中、誰かがこの場に入ってきた。
「ただいま……あら、お客さん?」
『おかえりなさい、ライカお姉ちゃん!』
三人の声が揃う。この人がライカさんか。
「ライカさん! ちょうどよかった、実は……」
九郎が話を――俺のことなんだろうな――切り出そうとした時。
「九郎ちゃん……」
うわすっげえ憐憫の目。
「嗚呼、ちゃんと仕事が見つかったと思ったら、
失敗に失敗続きで天引きに棒引き、
結局前とほとんど変わりはないわけね。そうなのね。
このライカ、やっと九郎ちゃんが安心して生活できると信じていたのに。
結局何がどうあれたかられて絞り尽されるのね。
あまりにあんまりだわぁ。よよよ……」
「そういうことじゃなくて!
いや確かに当たっているところも多分に……だから違うって!」
当たってはいるんかい。少しは否定しろよ。
「今回は此奴の件でここに来た。
此奴が、あの時の機械人形に乗っていた人間ぞ」
「ど、どうも……シン・アスカです。先日はすみません」
ライカさんはホッと胸をなで下ろして、
「よかったぁ。またたかりに来たんじゃないかと……」
「ということで、飯でも交えながら積もる話でもどうかな、と……」
「(゚д゚)」
こっち見んな。なんで九郎の方じゃないんだ。
「いただきます」
『いただきまーす』
さわやかな昼食の挨拶が、アーカムシティの空にこだまする。
この教会に集う子供達(+α×3)が、今日も無垢なる笑顔で、昼の食事を味わっている。
って、これはどこの女学院だよ。
しかし、実際こんな食事は久しぶりだ。
子供達がいて、母親役がいて。
それだと九郎が父親役か。少し頼りないが。
アル・アジフはとりあえず保留。
……家族、みたいだ。
「あらあら? どうしたの、シン君?」
聞こえていた? 声には出していないつもりなのに。
「シンお兄ちゃん……どうしたの?」
アリスンまで。
「そんなに美味かったのか? ライカ姉ちゃんのご飯」
ジョージの言っている意味がわからない。確かに美味いが。
「どうしたのさ、泣いたりなんてしちゃって」
言われて気づく、頬を伝う何か。
とても優しくて。
とてもあったかい。
そんな世界に、触れたからなのか。
いつからか、涙が溢れていたのに、やっと気づいた。
こんな―――こんなところにあった。
優しくてあったかい世界。
君を連れていく、あの時そう決意した、目指した世界。
それは、彼女への悔恨なのか。
自分が本当に欲しかったものなのか。
どっちにしろ。
この涙は、暫く止まりそうにはない。
こうして、俺のここでの生活が始まったんだ。
シン・アスカの………アーカムシティでの奇妙な生活が。
PHASE-1「The call of...me?」
Phase shift down...
―次回予告―
ひょんなことから、アルの断片の力に巻き込まれてしまったシン。
それは強大すぎる力。時空を操る力。
乱れに乱れた世界の理は、「あらざるべき出会い」を導き出す。
「イレギュラー」と「イレギュラー」。その出会いは、世界に何をもたらすのか。
次回、機神咆吼デスティニーベイン
「DE MARIGNY'S CLOCE」
憎悪の空より、来たれ! デモンベイン!!