―――守れなかった。
無力だったのは、妾だ。

赦すものか、獣。
赦すものか、混沌。
次こそは―――必ず。

妾の剣が、剣となった妾達が、貴様らを殺す。



  機神咆吼デスティニーベイン
  PHASE-2「DE MARIGNY'S CLOCK」

夕暮れの中、寄り道をして。
丘の上、街を眺めてる……

丘の代わりに、ビルの一室。
寄り道の代わりに、己の仮住まい。
窓の外、もうすぐ夜も眠らない摩天楼がネオンを纏い始めるだろう。
イレギュラーたる彼、シン・アスカは、此処アーカムシティの街並みをぼんやり眺めていた。

ここは、思っていたより技術が進んでいる。
車が一般的なのは分かっているが、まさかパソコンまであるとは。
まだ民間に広く出回っているわけではないが。
というか、下手をするとコズミック・イラに近い技術もあるかもしれない。
だが、どこか雰囲気はレトロなものだ。
自分の想像していた古き良き時代とは、少し違う。

正直、まだ慣れない。

一応、掃除や洗濯は一通りはできる。
一人で過ごしてきた時間が、他人より長いから。
ただ。
料理となると、やはり自炊だと少し味気無く、
外食だと金がかかる。
なので、時々はライカさんの世話にもなってしまう。
その代わり、金は払ったり孤児達とも遊んだり。
しかしこの孤児達、パワフルである。意外にも。
正直、このトリオを相手にしてきた九郎は凄いと思う。
バイタリティの差か。無論、いろいろな意味で。

しかし。
そろそろ現実問題、働き口は探さなきゃならない。
まさかこの問題まで覇道の世話になろうとは思わないし、
ライカさんだって言っていた。
「ちゃんと働かないと、九郎ちゃんみたいなその日暮らしで精一杯な
 ヒドい状況になっちゃうわよ」
「そりゃねえよライカさん、俺だって今はちゃんと働いて……」
嘘だッ。でなきゃ何故あんたも未だライカさんの世話になってるんだよ。

そういう九郎は、自分のことを魔導探偵とか何とかいってた。
どうやら魔導書アル・アジフのページが一部抜け落ちたようで、
それを回収する仕事らしい。
そこまで大変なことだとは思わない。
「魔力弾をくらえー!」
「うおっまぶしっ」
訂正、やっぱ大変で危険だと思う。
不完全の本体がこんなんだ。
というか、喧嘩に魔力弾なんて持ち出すな。
しかしこの二人、ちゃんと仕事できているのか?

……と、まあ疑問もいろいろとある。
が、割り切るしかないようだ。でないと死にかねない。

ふと、ぼんやりと窓に向けていた視線を外す。
そろそろ夕食の時間か。
食材も切れかかっているし、明日には買い物に行くか。

……携帯電話で時間の確認。
充電器の規格が、この世界のと同じでよかった。
違っていたら大変なことに……閑話休題。
この世界では、最早時計とデジカメくらいにしかならない。
でも、この中には。
自分が失くしたものが詰まっている。

親との、マユとのたくさんの思い出。
みんなで紅葉狩りにも行ったよな。
いきなり人の顔に葉っぱバラ撒いてきたよな、マユ……

一度だけこの携帯で、友達や先輩と、五人で取った集合写真。
最後の一枚、容量は本当にギリギリだ。
ヴェステンフルス隊長……いや、ハイネが半ば強引に撮ったっけ。
皆の端末にも、このとき取った写真は残ってるんだ。

……今となっては、懐かしい想い出。帰れない時間。
マユもハイネも、元の時代に帰ってきたところで、死んでいるんだ。

遂げた復讐。
それでも、晴れない心。
俺は、俺はこれからどうすればいいんだ。
誰も、答えられはしないだろう。

……少し気分がヤバくなってきた。
決めた、今日もライカさんのところにお邪魔しよう。
今は一人でいたくない。
一人でいたら、押し潰れそうだから。
見えない、何かに。

救いだった。
ただひたすらに。
優しくて、あったかい世界があったから、まだ俺は俺でいられるんだ。
感じたのは。
結局、平穏な日常が一番心が安らぐんだろう。

そういったことが。
今の俺の、唯一の救いだ。

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